A.M.Osula博士「越境捜査における通知要件の問題」論文 の示唆

マリア博士の共著論文で、「越境捜査における通知要件/国内法および国際法の観点」という論文が公表されています。

イントロ
開始されたデバイスもしくは、法執行機関みずからのデバイスから物理的に離れたデバイスに記録されたデータにアクセスする(遠隔アクセス)ことが、実際に増えています。捜索については、令状によって「捜索、差押え、記録命令付差押え、検証又は身体検査を行うに当たつては、当該処分を受ける者に対して、令状を示さなければならない。」とされています(犯罪捜査規範141条)。ところで、遠隔アクセスにおいて通知というのは、どのように考えられるのか、という問題を検討しているのが、この論文です。

この通知というのを国際法の観点から考え、国内法の観点からみていっています。オランダ、エストニア、アメリカの連邦刑事規則の改正の観点からみていきます。

国際法
国際法的には、サイバー犯罪条約32条b の越境アクセス(締約国は、他の締約国の許可なしに、アクセスが同意に基づく場合又は当該データが公に利用可能な場合に行うことができる)になります。この条文の起草者は、通知を必要としたとのことです。ただじ、説明書によるときは、具体的な通知は、国内法のゆだねられているとされています。この具体的な手続きが記載れているのは、ベルギーの刑事訴訟法になります。もっとも、実際には、ベルギーから、アクセスしうる場合においては、ベルギー国内で執行されているので、域外アクセスではないと考えられているようです。
他の国に対して通知するべきではないか、という点については、論拠を探すことはできないとしています。

国内法(エストニア、オランダ、米国)
エストニアでは、捜索・押収に関する刑事訴訟法91条の規定のみではデジタル環境におけるデータへのアクセスが可能かは明らかではないが、同法83条、86条(2)の「検査(inspection)」の規定によってアクセスが可能になります。しかしながら、捜索令状についての提示(同法91条7項)がリモートアクセスに適用されるか、どうかについては、明らかではないということになります。また、遠隔捜索において、データの場所が不明確である場合(場所喪失-loss of location)においてどのようにするかという問題があります。

オランダにおいては、オランダ刑事訴訟法94条-99条、110条によって規定されています。しかしながら、これらの規定は、有体物に対するものとされており、データ差押(data seizure )の分類のもとに、法執行の目的のために、保有もしくは複製が許容されるとなっています。遠隔において「自動的動作(automated works)」に保存されている場合には、真実を明らかにずくのに必要なデータは、その遠隔システムは、捜索することができる。ただし、具体的な例としては、(ローカルの)ネットワークに接続された記憶装置があげられているが、捜索場所からはなされた場所については、提供されていない。

また、データ差押については、同法125条mにおいて、通知が「関与当事者(involved parties)」になされなければならないとされている。これは、容疑者、データに責任ある当事者、捜索の対称たる物理的な場所の所有者・利用者・居住者である。(なお、容疑者は、状況において省略可能) また、データ所在地が不明である場合の通知要件の取り扱いについての具体的な法制度は、存在しない。

もっとも、現在、コンピュータ犯罪法が改正されている途上である。そこでは、データの遠隔捜査および押収についての権限は、8年以上の懲役の犯罪に限定される方向である。

米国においては、連邦刑事訴訟規則41条の改正によって、遠隔捜索・押収が可能になっています。

(高橋コメントです)この点ですが、改正前においては、連邦刑事訴訟規則 41 条(a)は、1 つの管轄区に属する令状裁判官は、「当該地区内にある物の捜索」ないし「ある物が令状請求の時点で当該地区内にあるが、令状が執行される前に当該地区外に移動する可能性がある・・・場合の、当該地区外にある・・・物の捜索」のための令状を発付できることを規定していました。そして、その元では、「データが50 州及びそれ以外の合衆国領土内の2 つ以上の異なった場所に遠隔的に保存されている場合には、捜査官は、連邦刑事訴訟規則41 条(a)の厳格な解釈に確実に従うため、データの各所在地毎に新たな令状の発付を受けなければならない。例えば、データが2 つの異なる地区に保存されている場合には、捜査官は、これらの2 つの地区において各別の令状の発付を受けなければならない。また、捜査官は、令状に添付された宣誓供述書において、データの所在についての周到な説明及び自らが提案する捜索実行手段を含めて示さなければならない。」
とされていました(なお、司法省ガイドライン2001版 70ページ前後)(コメント終了)

改正後の条文は、
「令状申立の場所(Venue for a Warrant Application. )
連邦法執行機関の管理もしくは政府の代理人の求めに応じ:

* * * * *

(6)犯罪に関連する行為の発生した場所の令状裁判官は、以下において、電子保存メディアを捜索するために遠隔アクセスを用い/その地域の内部であると外部あるとを問わず存在する電子的に記録されている情報を押収し、または、複製する令状を発する権限を有する。
(A) 技術的手段によって、媒体もしくは情報がどこに保存されているのか、隠されている場合; 」
となります。
また、手続きに関して、官吏は、令状のコピーと受領証を、捜索された人、捜索されたもの、複製された情報の保有者に対して送達する合理的な努力をしなければならないとされています。

この条文は、技術的に隠されている場合なので、域外である場合に常に捜索が避けられるわけではありません。この改正は、実質的な批判にさらされてきたとのことです。

論文は、これらの具体的な例をあげた後に、検討をしていきます。
具体的に検討されている事項としては
(1)「場所の喪失」案件においては、通知のスキームが直接に適用することが困難になってきている。
(2)「利害関係者」の特定自体が非常に困難になってきている。
(3)通知を遅延させる可能性が存在する。
(4)域外に存在するデータに対する捜索・差押えは、利害関係者としてのデータの存在国を加える可能性があることが意識されているにも関わらず、ベルギーの法律のみが、通知を規定しているのにすぎない。
(5)「場所の喪失」案件において、他の国家に対して通知する手段が検討されてしかるべきである。

というのが、論文の概要になります。

日本的には、いわゆる遠隔アクセスという場合については、「接続サーバ保管の自己作成データの差押え
差し押さえるべき物がコンピュータであるときで、当該コンピュータにネットワーク経由で接続している他の記録媒体に保管されていて、当該コンピュータで作成・変更・消去できる電磁的記録については、裁判所又は捜査機関は、それを一旦当該コンピュータにダウンロードさせた上で、当該コンピュータを差し押さえることができます(刑事訴訟法99 条2 項、218 条2 項)。この方法による差押えを行うためには、この方法が可能である旨の令状への記載が必要です(同法107 条2 項、219 条2 項)。

でもって、海外にデータが存在した場合には、どのように解するのか、という問題があって、この点は、既に、法制審議会の第一回で議論されています。その議論をみていくことにしましょう。

回答
「第五の方の差押えの関係での国内・国外の問題といいますのは,手続法の問題でございまして,特に外国にある記録媒体について差押えをする,あるいは捜索をするということは,刑事訴訟法上の問題と,それからもう一つは主権の問題,両方議論され得るわけでありますけれども,主として,他国に存在する記録媒体について強制処分を行うことは,一般的には主権の問題があり得るということで,その点については,サイバー条約でも国際共助の手続を行うという前提になっているものでございますので,そういう問題があるような記録媒体であるということが捜査の過程で判明し,あるいは確認されるような場合には,サイバー条約の場合であれば条約に従って共助の要請をしていくということになるという,そういうことでございます。」

質問「それは,あけて見てから分かるのでしょうか。」

回答「あけてみてということもあるのかもしれませんが,あるいはもっと前段階でそういうリモートの保存場所が日本国内にはないと,他国のどこかにあるということが分かれば,それについては共助の手続をとっていくということになると思います。」

(略)

質問「今のIPでどこかに問い合わせて,つまり,ネットワークでつながれているものは画面から見てどこの国にあるか分からない,そうすると,IPで追いかけて,そのIPがどこの国のサーバなのかを確認する手順をとってというふうなことが想定されているという,そういうことでしょうか。」

回答「コンピュータの所在場所については,恐らく捜査の過程でいろいろな情報があり得ますので,それをもとに判断するということになりましょうが,所在場所が他国にあるということがその過程で分かれば,そういう共助の手続をとるということでありまして,何の証拠で分かるかというのは,多分ケース・バイ・ケースでいろいろあるのかなというように思います。」

とういことで、海外に存在することがわかれば、そこで、この手続きは適用しなくなります、というのが、日本における見解ということになります。では、「場所の喪失」の場合は、どうかということになりますね。この点については、わが国では、具体的には、議論されていないと思うのですが、どうでしょうか。(ちょっとだけJemさんのページでふれられています)

でもって、次の週末は、日本の考察を英語でまとめることにしたいですね。頑張れ>自分

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