サイバーにおける自衛権、武力攻撃、武力行使、対抗措置

そういえば「サイバー攻撃に対抗措置」の記事で、「政府内には、サイバー攻撃に自衛権の行使で対処すべきだとの意見もある」という記載があったので、自衛権について、メモ。

自衛権には、国連憲章に先立つ概念として

(1)領域侵害正当化型自衛権

私人による自国に対する急迫かつ重大な侵害があり、領域国あるいは船舶の旗国による抑止が期待できない場合に、当該領域に進入しあるいは公海上で、みずからに対する侵害を排除すること

(2)戦争・武力行使正当化型自衛権

侵略戦争・侵略行為禁止に対する例外として、防衛のための武力行使を法的に正当化する根拠

の二つの意味があり、国連憲章は、国家間の武力行使を規制しようというものだったので、「領域侵害正当化型自衛権」は、議論さることはありませんでした。

一方、国際的には、ICJニカラグア事件によって、国連憲章2条(4)によって禁止される武力行使は、武力攻撃(憲章51条の正当化根拠)と武力攻撃にいたらない武力行使に区別することが一般化しました。(従わない国あり)

この国際的な整理のアプローチをとるときには、自衛権は、武力攻撃の発生の場合に限定し、それに至らない武力行使に対して、対抗措置をとるという形で整理されることになります。タリン・マニュアル(2.0も)は、基本的にこのような整理のアプローチをとっています。

国際法的には、このような整理をすることができるのですが、その場合の国内法との整合性を確認しておきます。「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(事態対処法)は、2条1号で「武力攻撃」とは「我が国に対する外部からの武力攻撃」といい、2号において「武力攻撃事態」とは「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」をいうと定義しています。ここで、「我が国に対する外部からの武力攻撃」とは、自衛隊法76条においてもふれられていますが、「わが国に対する外部からの組織的、計画的な武力の行使」をいうと解されています。

でもって、わが国の国内法的には、これらの概念の関係が、どのように整理されているか、ということですが、上述のような国際的な整理(タリン・マニュアル多数説)にあわせて、整理されているように思われます。もっとも、憲章51条の武力攻撃とのレベル(サイバーに関するものとして、シュミットスケールという基準で判断されるのが、実際の通説みたい-国家実行としてはない)の差については、教科書レベルでは、わかりません。

上で、従わない国というのは、米国で、米国は、武力行使(Use of Force)を二つに分けるということを否定して、すべて、自衛権の行使を正当化させる、というアプローチをとっています。

すると、「政府内には、サイバー攻撃で自衛権の行使で対処すべきだとの意見もある」という考え方は、間違いなのか、という問題になります。学説としては、もともとの国家に固有の権利としての自衛権は、上の(1)および(2)の両方があるという立場をとり、しかも、その発動のための要件は、「武力攻撃の発生」に限られるわけではない、という立場も解釈としては成立しうることになります。この立場としては、対抗措置概念は、ほとんど必要がない、ということになり、この政府内の見解の立場の背景は、このような立論ということかと思われます。ただし、問題は、このような整理の仕方が、一般的なのか、ということになるかと思います。

これをまとめるとこのような表にすることができると思います。

 

 

ここで、グレーゾーンという用語を用いていますが、グレーゾーンとは「武力攻撃に当たらない範囲で、実力組織などを用いて、問題に関わる地域において、頻繁にプレゼンスを示したり、何らかの現状の変更を試みたり、現状そのものを変更したりする行為」をいうとされているので、サイバーにおいても、シュミットスケールに該当するような事態を引き起こす場合には、グレーゾーンということができるかと思います。
あと、対抗措置については、武力の行使をなすことができるのか、ということも一つ、問題になるかと思います。兵器を利用した有形力の行使をなしうるか、ということであれば、可能であることはいうまでもありません。定義の部分で明らかなように武力行使に至らないレベルとして比例原則にしたがう限り、許容されることなります。Forceの訳語として武力を当てているわけですが、51条の、正当防衛のレベルの武力と、比例のレベルの有形力の行使とで、訳語を変えないと、正確な理解ができないようにおもえます。(いわゆる、ロスト・イン・トランスレーションというやつですね)

(要は、現行法上は、国際法的には、対抗措置として、兵器を利用した有形力行使をなしうるが、国内法的には対抗措置としての武力の行使をなしうるための根拠法がないという解釈になるかと)

It's only fair to share...Share on LinkedInTweet about this on TwitterShare on Facebook