国家支援によるサイバー諜報行為 2

1)世界における積極的評価の認識

 サイバーインテリジェンスが重要な意味をもつ概念であるとして論じられる場合、機能的に積極的な意味、国際法的に違法とは評価されていない事実に注意しなければなりません。

機能的なアプローチをとる場合には、インテリジェンス行為によって得られた情報によって不必要な摩擦をさけることができ、平和な関係を育てることができるとされています。

国内的には、いうまでもなく、国家の指導者層は、インテリジェンス行為によってえた情報を用いてよりよい政策決定をなすことができる。このような機能は積極的に評価されるべきと考えられています。

次に、国際法的に違法であると評価されるのではないかという問題がある。
一般的に問題になる平時 におけるインテリジェンス行為の違法性については見解が分かれています。

具体的には、
(ア)積極的な機密事項の取得等は、国際法上、違法であるという立場(イ)積極的な機密事項の取得等は、国際法上、違法ではないという立場(ウ)積極的な機密事項の取得等は、国際法上、適法・違法であるというものとは別個の次元にあるという立場

があります。

この点についての先例的な事件は、U-2撃墜事件です。この事件は、1960年、メーデーの日にソ連を偵察飛行していたアメリカ合衆国の偵察機、ロッキードU-2が撃墜され、偵察の事実が発覚した事件です。この事件は、予定されていたフランスのパリでの米ソ首脳会談が中止されるなど大きな影響がありました。この事件において、このU-2偵察機のパイロットが、スパイをおこなっていたことを自白したために、当時のアメリカ合衆国のアイゼンハワー大統領は、「ソ連に先制・奇襲攻撃されないために、偵察を行うのはアメリカの安全保障にとって当然のことだ。パールハーバーは二度とご免だ」と発言したということです。

ここでは、国際法上の関係で、どれが適切な解釈であるかを論じるものではありませんが、外国におけるコンピュータのセキュリティを侵害して、そのデータを取得することが、国際法上、問題とされるものではない(国内法への抵触は別として)という見解がきわめて有力であることは念頭におく必要があります。

サイバーインテリジェンスは、積極的な機能を有すると評価する立場が有力である上に、国際法的にも、違法とはいえないという立場もきわめて有力です。
このように世界的な現実的な議論についての認識をもつことは、我が国におけるサイバーインテリジェンスに対する防衛の認識を高めるのに意味をもつものと考えられます。

(2)サイバーインテリジェンスの国内法的抵触

では、インテリジェス行為が各国の国内法との関係でどのような抵触関係を発生させるのかということについて検討することがでてきます。

正直、この点については、調査が追いついていません。調査予算が必要なところになります。

それはさておき、国家の非公然行為が、他の国の法益を侵害した場合、その行為は、国内法との関係で「理論的に」違法であるということになるのでしょうか。

まず、国家行為が、国内法との関係で規制しうるのか、という問題がでてきます。主権免除(クラウン免責特権)が、そもそも、どこまで認められるのか、そのような国外へのインテリジェンス行為が、この免除の特権の範囲なのかということが問題になりそうです。

また、行為国の法が、そもそも、どの程度、規制しているのかという問題もあります。米国においては、米国の諜報機関は、その基本的にある法理として、国外においては、USシチズンの人権については、別であるが、それ以外の権利については、なんら規制を受けることはないという理論のもとに活動をしています。したがって、米国の法は、かかる諜報機関の活動を制限するものではないということになります。

もっとも、被害をうけた国の法律がどのように適用されるのか、ということになります。行為者が外国から行為をなして、その行為によって国内のコンピュータが無権限アクセスを受けた場合には、その被害国の法律が適用されることになるのが一般です。属地主義の一般からいっても、被害発生も行為地の一つとされているものと考えられます。

これらを検討したものの、実際には、この問題が現実化するということはほとんどありえません。仮に、「国家支援」のサイバー攻撃に特定のものが関与していたとしても、それは、「国家支援」であるということについて、国家は、「みせかけの否定」をすることになり、個人での行為ということになることになります。

このような否定がなされずに国家が諜報機関のなした所為であるということを認めたのが、レインボーウォーリア号事件です。この事件は、1985年7月10日、ニュージーランドのオークランドで、フランスの情報機関である対外治安総局(DGSE)が、グリーンピースの活動船レインボー・ウォーリア号を爆破して沈没させ、死者1名を出したという事件です。結局、この事件については、フランス政府は、関与を認めて、国連事務総長の裁定をもとに、フランスは、ニュージーランドに金銭を支払うこととなりました。

(3)  対抗措置についての整理

サイバー攻撃が、理論的には、武力攻撃に該当しうること、その一方で、実質的には、サイバー攻撃のみで、武力攻撃に該当することはきわめて困難であるということはいえるでしょう。

武力攻撃レベルに該当した場合、従来型兵器による反撃自体も選択肢として可能であるということが認められるでしょう。その一方で、実際には、武力による反撃という選択肢が採用されることはまずないものと考えられるということに整理されることになります。

むしろ、国家によるインテリジェンス行為にたいして、被害国は、対抗措置をとることが許容されることになります。

対抗措置とは、被害を被っている国家が違法な行為の中止を求め、あるいは救済を確保するために、武力行使にいたらない範囲で相手国に対してとりうる措置をいいます。

国家責任が発生しうるものであるかという事実認定の問題が、先決問題として存在することになりますが、もし、インテリジェンス行為に対しては、対抗措置の問題と考えるのが本筋ということになるのでしょう。具体的には、外交、交渉、インテリジェンス、武力による対抗などが採用されるべき問題となります。

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