宇宙-サイバーセキュリティの最後のフロンティア ?(中)

引き続いて、チャタムハウスの「宇宙-サイバーセキュリティの最後のフロンティア ?」の報告書をみていきましょう。

4章は人工衛星に対するサイバー脅威の技術的側面です。ジャミング、超物理的サイバー攻撃、なりすましが紹介されています。

ジャミングは、通信手段である信号を妨害することによって接続を困難にする試みをいいます。短波放送等で、聴取を邪魔するようなノイズ放送がながれているのもこのジャミングです。
報告書においては、衛星と受信者のいわば、「ダウンリンク」でなされるジャミング(地上ジャミング-Terrestrial jamming)と地上施設と衛星の間のアップリンクでなされるジャミング(軌道的ジャミング-Orbital jamming)に分けられます。
地上ジャミングは、テレビとラジオの受信が困難になりますし、また、携帯電話の通信/インターネット接続を困難にするということも可能になります。これは、安価で、邪魔―は、身元を簡単に隠せます。その一方で、現実的に妨害にある電波を送信することが困難であるということもいえます。
軌道的ジャミングは、地上局から、衛星に向けての通信を妨害するものです。これは、場合によっては、衛星が適切に機能を果たせなくなるということも起こり得ます。
また、ジャミングの信号は、付随的な影響を及ぼすこともありえます。

超物理的サイバー攻撃(Beyond physical cyberattacks)というのは、通信・ナビシステムの脆弱性を悪用する巧妙な攻撃手法です。結果としては、広範囲にわたるサービス妨害、標的のインテグリティ障害、そして、それらによってアプリケーションにおいて危険を惹起することになるです。
PNT(precise positional, navigation and timing -衛星即位システムサービス) は、即位測量・航行支援・時刻同期に関する単角システムで、10m-1ミリの測位精度を得られ、超高精度の 時刻情報を得られるシステムですが、これは、GNSSにより依拠しています。
そして、GNSSシステムは、無線や固定の通信ネットワークの同期のようなアプリケーションに利用されています。この同期精度が高いことは、電気通信事業者の単位時間あたりの接続呼の収入の差、金融の電子取引に決定的な差をもたらすとされています。
GNSS衛星からの信号は、受信機に対して非常弱い信号で伝え綿目に、ジャミングに対して弱いとされています。北朝鮮が、ソウル領域に対して、ジャミング攻撃をなすことによって携帯電話ネットワークを含めて、通信が脆弱になっているとされています。(もっとも、公共サービスや軍事レベルのGNSSは、種々の技術で堅固になっています)。

なりすましは、やりとりされる通信の情報を操作し、インテグリティを侵害するものである。ジャミングを超えて、信号を虚偽の信号に変えてしまう。なりすましが成功すると、国家の電力グリッドを標的として、損害を与えること/高頻度取引を標的として、間接的な経済損害を与えることに、成功してしまう。

同報告書は、国際的インシデントおよび脆弱性の意識(19頁)で、米国のGPSシステム、ロシアのGLONASSシステム、ヨーロッパのSBASシステム、EGNOSシステム、新しいGalileo、中国のBDS、BeiDou-2、インドのNAVIC(前は、IRNSS)、IRNSS-1G、日本の Quazi-Zenith Satellite System (QZSS)があること、そして、相互の干渉によって、15のGPS衛星の信号が、13マイクロ秒不正確であったこと、電気通信会社は、chronosのクライアントは、12時間数千のシステムエラーに悩まされたこと、また、BBCのラジオ放送にも影響を及ぼしたこと、にふれています(20頁)。

また、国際紛争が、原価・深刻化するにあたっては、通信システムの脆弱性が、外向的・軍事的なキャッペーンに利用されうることが説明されています。軍事戦略と戦略ミサイルシステムは、衛星と宇宙インフラに依存し、ナビゲーション/標的/指令・コントロール/作成モニターなどを行っています。衛星に対するサイバー攻撃は、戦略武器システムのインテグリティを低減し、抑止体制を不安定化させてしまいます。また、地上からの管制システムに、バックドアが仕込まれて、それが乗っ取られてしまえば、衛星が、操縦されてしまうことも可能になります。この場合に、他の衛星に衝突させられることも起こり得ます。ソーラーパネルを動作させることができ、そうすると、太陽照射が、取り返しのつかない損害を与えうることもありえます(23頁)。他の衛星への衝突は、宇宙兵器といえるとされます。
2014年には、ロシアは、ウクライナが、ロシアのテレビ衛星の軌道を妨害していると主張しました 。
このような前提のもと、2011年米国のサイバー国際戦略は、軍事システムに対するすべてのレンジのサイバー脅威を把握し、対処することが必要であるとしているのです(21頁)。

民間衛星システムの脆弱性については、対処が必要であることは、いうまでもありません。2014年10月の米国の気象衛星システムに対するサイバー攻撃は、戦略的な宇宙資産の脆弱性を明らかにしています(21頁)。なお、そのときの新聞記事は、こちら です。
同報告書においては、特に、脆弱性についての多様な分析・評価が必要なこと、脆弱性の緩和が、デザイン・実装されることが必要になること、GNSSの脆弱性を収集し、対応策を実際に積み重ねることなどが必要であるとされています(22頁)。

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